第2試合 井上鉄朗(二段、千葉船橋支部) 対 山根一樹(2級、神大横浜体育会支部)

解説

第14回全日本フルコンタクトテコンドー大会3位の井上は、蹴美の名選手であり、
しかも体重が90kgを超えるので、その蹴りは非常に重い。
対する山根は初出場ではあるが、第2回関西大会で黒帯を倒して優勝するという快挙を成し遂げた。
体重も80kgを超えているので、井上同様、蹴りは重い。
両者とも柔道の中量級選手のような「四角い体系」に近く、直接打撃制に絶えうる身体的能力が比較的高いといえる。

序盤。
井上は左前足で軽めの「中段横蹴り」をはなちながら間合いをはかる。
井上が2度目の左「中段横蹴り」を蹴ると、
山根が回転して右「上段後ろ回し蹴り」のカウンター攻撃をしかけた。
だが、蹴りに切れがないので、井上は軽く防御した。

井上はあたかも左ジャブの如く、左「中段横蹴り」をはなって、突きの間合いにつめ、山根の顔面めがけて連打をあびせる。
山根は「両手拳正面立て受け」で防御するが、下半身が逃げてしまい、赤コーナーに追いつめられる。これで井上の得意とする「かかと落とし正面蹴り」の間合いとなり、伝家の宝刀が山根の脳天めがけてふりおろされた。
山根は、定石通り、「上段手拳十字受け」で防御した。
だが、山根の表情にやや気後れが感じられた。
これでこの試合における攻勢・井上と守勢・山根の明暗がわかれた観がする。

井上は左「中段横蹴り」から右「後ろ横蹴り」をはなち、山根のボディを襲った。
山根は後進を余儀なくされ、再び赤コーナーに追いつめられた。
井上はショートの突きの連打を顔面にはなつが、山根は「両手拳正面立て受け」で防御しながら、
半歩程すすんで「前進体当りクリンチ」をし、すかさずコーナーワークをつかって右へ旋回し、
ほぼリング中央へと戻った。

中盤。
両者様子をさぐるが、山根が左のジャブから重心を十分におとして右「かかと落とし内蹴り」をはなち、それが井上の左鎖骨にヒットした。
この試合で山根に勝機があったとすれば、この瞬間だった。蹴りによる連続攻撃がほしかったのだ。
だが、山根はツメが甘い。
攻撃しないで前進する井上の気迫に押されてしまい後進してしまった。
両者は、リング中央でしばらく対峙した。

膠着状態を打開すべく、山根が「前方2回転かかと落とし」をしかけたが、いかんせん迫力にかける。ただ技をしかけるだけではダメなのだ。
フルコンタクト・テコンドーで要求される全身全霊をこめた蹴りではなかった。

当然のことながら井上は、難なくかわしたし、余裕すら感じられた。攻撃パターンをシュミレーションしている観があった。
井上は顔面への牽制の突きを3連打はなち、連続して右の「中上段突き」を山根の左側鎖骨へぶち込んだ。
山根は、もっぱら「両手拳正面立て受け」で防戦一方だったが、序盤戦同様、下半身が逃げてしまい赤コーナーに追いつめられる。ここでは半歩すすんでの「前進体当りクリンチ」がほしかった。
間合い十分の井上は、得意の右「かかと落とし内蹴り」をはなった。
山根は、間一髪紙一枚の差で顔面への直撃を回避できたが、ガードが完全に崩れてしまい腰があがってしまった。

試合巧者の井上は、下がると見せかけて後進した。
山根は、ホッとしたかのように前進しようとしたが、それが罠だとは気づいていなかった。
井上の左足が右足と交差しながら加速をつけて、そうあたかも演武での試し割のような「中段横蹴り」となり、山根のボディを刺したのだ。
 山根はたまらずロープに飛ばされてダウン。「技有り」かと思われたが、すぐ山根が立ったので、
主審は「技有り宣告」をしなかった。

終盤。
おそらく井上は、この時点で勝利を確信したに違いない。周知のとおり、全日本フルコンタクト・テコンドー大会は、トーナメント戦の勝残り方式なので、優勝するためには、スタミナを温存しなければならない。井上の攻撃は減少した。

 「ラスト30(秒)」。神奈川大学体育会支部から「山根コール」がおこり、後楽園ホールに轟いたが、時すでに遅しの観があった。
 山根は大声援に応えようと顔を紅潮させて攻撃をしかけてが、いかんせん技の切れがなかった。

他方、井上は余裕だった。
 終了ゴングの鳴る直前、井上は右の「かかと落とし正面蹴り」をはなち、退く山根に対して、
研究組手の定石通り、同じ右足で「中段横蹴り」をはなった。この技は、昔、神大の先輩であり、宗師範内弟子第1号でもある山村光伸が得意とし、全日本学生大会において朝大のパク・ソンファをダウンさせた必殺技だ。井上は神大在校時、山村と良く練習をしており、技を磨いたものだった。

 蹴りは山根のボディを完全にとらえ、山根の顔がゆがむと同時に身体が「くの字」に曲がった。
 ゴングが鳴った。当然のことながら判定は、井上の赤旗が3本上がり、完勝だった。

山根の課題は、普段の練習で自分よりもレベルの高い選手の胸を借り、頭だけでフルコンタクト・テコンドーを理解しようとするのではなく、身体に染み渡るように蹴美の技を涵養しなければならないという点につきる。その模範が組手総見などの宗師範稽古に参加し、山村光伸などのレベルの高い先輩から多くの技を吸収した井上鉄朗である。





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