第3試合 趙 鉄来(二段、横浜市立大学体育会支部) 対 古谷知也(二段、高知支部)


解説

両者は、第13回全日本大会出場以来、3年連続して全日本大会に出場しており、キャリアは申し分ないといえる。
格闘技の殿堂・後楽園ホールのリング上は、独特の雰囲気がある。それは選手としてリング上に立たなければ分らないものだ。だが、両者はその独自の雰囲気にのまれることはなく、お互いが、その持ち味を十二分に発揮するであろうと予想された。

趙は、体重が100kg近く、身長も182cmある。テコンドー界に限らず、打撃系武道界の中ではヘビー級に属する選手だ。当然、蹴りや突きも重い。まさに重戦車だ。
しかも打たれ強いという長所があり、フルコンタクトテコンドーに適した身体的能力を有している。

対する古谷は、体重72kg、身長176cmと中肉中背の選手だ。
過去、古谷は、第13回全日本大会の1回戦で趙と対戦し、体格的ハンディを克服して判定勝ちをおさめている。今大会でも、体重差約30kgをいかにして克服するのかが課題であった。

宗師範内弟子課程を終えて故郷・高知へ帰郷し、高知支部を創設した古谷が連勝するのか、
あるいは、横浜市立大学体育会を創設した趙が、2年前の雪辱を果たすのか。
両者ともファウンダーとして負けられない一戦だ。

序盤。
趙は、左足を軸にしながら右足を左方向へ回しながら古谷との間合いをつめようとする。
これに対し古谷は、軽い上下のフットワークで様子を見た。
すかさず定石通り、趙の動きに合わせるかのように、左足を軸に右足を左方向へ回した。
ほぼ同じフットワークをした両者は、結局、リング中央を半周まわったことになり、定位置が逆になった。

仕掛けたのは趙だった。左ジャブを顔面めがけてはなつと、
古谷が、がら空きの右脇腹へ、「左中段回し蹴り」をカウンターで蹴る。
趙は、すかさず「左上段回し蹴り」をはなったので、ヒットするかに見えたが、
古谷が反射的に右手および肘を上げて防御した。

古谷が左へ旋回し、「左回し蹴り」を蹴るが、趙は「後進防御」でこれをかわす。
連続で古谷が「右かかと落とし内蹴り」をはなつが、趙も負けじと「左回し蹴り」で応酬したため、
古谷が後ろに飛ばされてしまった。体重約30kg差が露骨に出た観があった。

趙はじわりと前進し、重い「右中段回し蹴り」を脇腹めがけて蹴り、逆に、古谷はカウンターの「左上段突き」を顔面めがけて突いた。

だが、ダメージは古谷の方が大きく、右手が下がった。
その瞬間、趙の「左上段回し蹴り」が、古谷の顔面をとらえた。
ダウンこそしなかったが、この蹴りが、勝敗の明暗をわけた観がある。

中盤。
趙は、中段・上段と有効打だが決まったのだから、すかさず怒濤のラッシュをかけるべきだった。
同様にセコンドも「ラッシュ!」を指示すべきだった。
しかし、趙は重心を落として両手のガードを上げて様子を見たため、古谷の回復を許してしまった。

軽い上下のフットワークで回復をはかっていた古谷は、明らかに一発逆転を狙っていた。
趙は、大きく一歩、前進しながら古谷をコーナーに追いつめ、「左かかと落とし」をはなつが、
これこそが古谷の罠だった。
研究組手の定石「カウンターの後ろ回し蹴り」を決めるために、古谷はわざと下がったのである。
古谷は、待っていました、というが如く、「右後ろ回し蹴り」を蹴る。
これが古谷にとっての勝機だった。
瞬間、趙の顎が浮いており、ディフェンスの位置も低かったので、あわやと思われた。

しかし、古谷の右足の踵は、180cmを超える趙の顔の右側面には届かなかった。

終盤。
おそらく古谷は、この時点で敗戦を覚悟したに違いない。
そのためか何とか勝機をつかもうと「突き」や「回し蹴り」、「後ろ横蹴り」等をはなつのだが、
いずれも腰がはいっておらず、決定打にはならなかった。
やはり帰郷した後の組手不足(組手の相手がいないため)が、致命的だったのかも知れない。
組手の感覚的な歯車があわない、そんな感じがしてならなかった。

他方、趙は、この試合終始マイペースで、攻防にムラがなかった。
趙は、自分に言い聞かすかのように、ガードをがっちり固めていた。
古谷は攻撃がしずらそうであった。

両者の間合いが近づいた瞬間、趙は、「右中上段回し蹴り」を蹴り、
古谷が「手拳立受け」で防御すると、
趙はすかさず「左上段回し蹴り」を蹴り、古谷の顔面をとらえた。
横浜市大学体育会支部部員が陣取る観客席から大歓声が轟いた。

「ラスト30(秒)」。
横浜市大学体育会支部部員等から「テツライ・コール」がおこり、後楽園ホールに轟いた。
あっという間に時間が過ぎ、判定となった。
趙の青旗が3本上がり、優勢勝ちをおさめた。趙の完勝といえよう。






戻る