第5試合 坂本洸巳(初段、神奈川大学湘南校体育会支部)対 鈴木裕司(初段、湘南平塚支部)

解説

両者とも全日本大会初出場。
だが、坂本は、2004年度JTAランキング第4位の猛者。
本年度出場したすべての全日本大会予選会で優勝を果たしている。つまり今シーズン無敗の選手だ。
これは神奈川大学湘南校体育会の先輩、尾崎圭司以来の快挙である。
サウスポー・スタイルからの蹴美は見応え十分。台風の目となる有力選手だ。

対する鈴木は、ランキング第12位。第16回全日本学生テコンドー選手権大会1部中量級で優勝し実力で出場権を獲得した。
童顔で、おとなしそうに見えるが、試合になると性格が変わり、ガッツが光る。

序盤。
鈴木が軽い左「連続横蹴り」で間合いをつめる。
坂本はコーナー方面に後進し、すかさずKO狙いの左「上段回し蹴り」をはなつが、
鈴木が右「手拳立て受け」で手堅く防御する。

コーナーを背にした坂本が、フットワークで左方向に移動しようとした矢先、
鈴木は、左「後ろ横蹴り」を蹴る。
だが、坂本に間合いを見切られ、不発に終わった。

鈴木は、旋回してリング中央に移動した坂本に対し、大きく踏み込んで「中段跳び横蹴り」をはなつ。だが、フォームが定まらず「跳び前蹴り」のようにも見える不十分な蹴りであったため、
坂本に難なくかわされてしまう。

鈴木が、不十分な姿勢から右「中段回し蹴り」を蹴ると同時に、
坂本は、カウンターの蹴り、JTAの伝家の宝刀・左「跳び後ろ横蹴り」を鈴木のボディーに命中させる。まさに絵に描いたような蹴美だった。この改心の蹴りが、審判の心証を良くした。

しかし、鈴木の闘争心は衰えなかった。
両者はすかさず同時に左「回し蹴り」を蹴る。
とにかく下がらない鈴木は、中段「回し蹴り」で坂本のボディーを狙う。
坂本は右に若干移動し、左「上段回し蹴り」をはなつ。
鈴木の顔を僅かにとらえたためか、鈴木の顎が浮き顔が左にぶれて態勢が崩れた。
坂本はそれを見逃さず連続して右「跳び後ろ横蹴り」をはなちヒットさせるが、決定打にはならない。

鈴木は「跳び前蹴り」から、連続して左「中段回し蹴り」を蹴ると同時に、
坂本は、がら空きの顔面(おでこ)へ左「上段突き」をはなつ。
鈴木は、顎が浮き突かれた方向に首が大きく動いてしまう。やはりキャリア不足が否めず、接近選での防御が甘い。
「おでこ」と「顎」に限り、顔面への「上段突き」を認めているフルコンタクトテコンドーでは、
接近戦での「顎のひき」が防御および安全上も重要だ。

中盤。
両者中央でにらみ合う。
鈴木が突進し、跳び蹴りのような技をしかけようとした矢先、
坂本は、得意技の左「跳び後ろ横蹴り」をはなつが、威力が弱く、決定打にはならない。

鈴木は、がむしゃらに攻めようとするが、まったく蹴美にはほど遠かった。後ろに下がらずひたすら前進しようとする闘志はわかるが、これはルール上禁止されている。
適度な蹴りの間合いを保ちながら華麗な威力のある蹴り技の応酬を追求する蹴武(蹴りの武道)の
フルコンタクトテコンドーは、カラテでは無いので改善しなければならない。
当然、仮屋山主審は「止め」を宣告し、青コーナーでもつれあった両者を離した。

鈴木はコート中央から突進し、左「中段横蹴り」を蹴る。これはきれいな蹴りだった。
ところが、坂本は、完全に鈴木の蹴りの間合いを見切っており、軽く後進してかわすと、すかさず
左「上段回し蹴り」をはなつ。
同時に、鈴木も負けじと、左「中段回し蹴り」で反撃した。

坂本は「かかと落とし」を蹴ろうとしたが、間合いが近すぎて不十分。
次いで、左足を大きく後進させて左「跳び後ろ横蹴り」を蹴るが、鈴木には僅かに届かなかった。
間をおかず鈴木は、左「中段回し蹴り」をはなち、坂本の右脇腹にヒットさせた。
坂本は、若干利いたようだったが、さすがは2004年度JTA公式戦無敗の男。するどい左「上段回し蹴り」を間髪を入れずに蹴る。これが当たれば「一本勝ち」のKO、悪くても「技あり」と思われるほど力が入っていたが、鈴木が両手で手堅く防御した。

終盤。
鈴木は、あいかわらず前進し、中段への蹴りを出すのだが、「後ろ横蹴り」を除けば、蹴美には遠すぎた。
他方、坂本は、間合いがつまり、やりにくそうだった。不十分な間合いで試みた「跳び回転後ろ回し蹴り」の大技も不完全だったし、「跳び後ろ横蹴り」も不発に終わった。

「ラスト30(秒)」。
鈴木が所属する湘南平塚支部と横浜西口支部の会員から「ユウジ・コール」がおこる。セコンドについている尾崎圭司支部長も絶叫に近い指示を出していた。
これに負けじと約50名の部員をもつ神奈川大学体育会支部部員からも「ヒロミ・コール」がおこり、
後楽園ホールは沸きに沸き、いずれの名前も聞き取れなくなった。
(河宗師範曰く「ユウジ対ヒロミのコール、これで「キャー」とくれば、芸能人の運動会のようだ」)

坂本が、力強い左「跳び後ろ横蹴り」をはなつが、おしくも左にズレてしまい、鈴木の左脇腹をとらえることはできなかった。
鈴木のガッツは衰えないが、いかんせん蹴美が足りない。膝も棒立ちで、防御上も改善すべきだ。

他方、坂本は、左「跳び後ろ横蹴り」で鈴木のボディをとらえ、若干間をおき右「跳び後ろ横蹴り」はなつ。この二つの蹴りは、フォームが整っており、蹴りもきれいだったので、明らかに審判の心証を良くした。
左右いずれも有効な「跳び後ろ横蹴り」をフルコンタクトテコンドーの公式戦で蹴れるのは、JTAでも3人程度しかいない。やはり坂本のポテンシャルは高い。

また、ラスト30秒での華麗な蹴り技は、たとえ決定打にならなくとも、判定の際、審判には好印象を与えるので、とても重要だ。

ゴングが鳴る数秒前、坂本は右「後ろ回し蹴り」をはなつが、ヒットはしなかった。

終始、放たれた坂本の蹴り技が評価され、青旗が3本上がり、坂本が優勢勝ちをおさめた。




 



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