2004年6月27日実施・理事会通信

(議題)

第15回全日本フルコンタクト・テコンドー選手権大会における

T 競技力向上を目的とした一部ルール改正

U 万一の死亡・後遺障害保険金額の5千万への増加(前大会時の5倍アップ)


(議案提案者) 河 明生


(理事会承認事項) 

1, 第7回東京都大会一部組手試合(第15回全日本大会予選)より、
@ 顔面強打が禁止されていることを奇貨として、攻撃しないで前進し、間合いをつめる行為の禁止
A 手による押し(弱い張り手)の禁止
B 4連打以上の中段突き(3連打まで)の禁止
それに違反した場合、主審が、注意もしくは減点とする。


2、第15回全日本フルコンタクト・テコンドー選手権大会以降の全日本大会での
  死亡・後遺障害の補償金額を5千万円とする。


(主旨)

1,フルコンタクト・テコンドー・ルールの進化の必要性

日本は、空手、柔道、剣道などが発祥した世界最高水準の武道先進国である。
また、K1やプライドの盛況をみれば明らかなように世界有数の格闘技先進国でもある。
当然、武道愛好家や一般ファンなどの評価基準も高い。

このような地域で20年程度の歴史しかもたない後発武道のテコンドー、
とりわけ、4年程度の歴史しかもたないJTAのフルコンタクト・テコンドーが社会的認知を受け、
日本全国に普及・発展するためには、フルコンタクト空手などの先発打撃系武道とは明らかに異なり、
しかも他の追随を許さない「独自の技術力」と「独自の競技性」を全日本大会で追究しなければならない。

現在、JTAは、他の打撃系格闘技や武道との比較において「絶対的な強さ」や「相対的な強さ」を求めているわけではない。
これはプロの興行主や格闘技選手に任せておけば良い。
われわれが全日本大会で目指しているのは、アマチュアのフルコンタクト・ルールでありながら、
人々をして感嘆させる蹴美=美しい蹴り技主体の「華麗な強さ」である。

この理想の実現は、ライトコンタクト・ルールではないフルコンタクト・ルールでは、なかなか難しいかも知れない。
蹴り技と威力を同時にのばさなければならない選手にとっては、大変、過酷な要求かも知れない。
しかし、地球上のあらゆる生物の中で、理想を追求するのは、人間だけだ。
日本には、大小1千程度の打撃系格闘技・武道団体(その中、500程度が空手)があるといわれている。
1千程度の打撃系格闘技・武道団体の中、JTAは理想を追求する数少ないアマチュア武道団体であり続けたいと考えている。


2,将来、生じるであろう問題点の未然防止 ー 試合技術の停滞防止

システムやルールの改正・改良の意味は、将来、生じるであろう問題点を未然に防止することにある。

1)一部フルコンタクト・ルールの一部改正・改良

現在はいないが、
将来、全日本大会やその予選会において
「フルコンタクト・ルールなのだから一本勝ちで倒せば勝ち」と考え、
「蹴り技の高度化」=「蹴美の追究」をおろそかにし、回し蹴りだけに特化して、体重を増やし、
回し蹴りや中段突きだけの威力を高めようとする選手が出てくる可能性は否定できない。

そのような選手が得意とする「攻撃パターン」は、次の通り。

<予想される「攻撃パターン1」>

攻撃しないで腰を落として前進し、間合いをつめながら(もしくは両手の「弱い張り手」で相手選手を押す)、
コーナーに追いつめ、中段回し蹴りの連打で手のガードを落とし、上段回し蹴りで決める、というもの。

これは、顔面強打を禁止しているフルコンタクト空手の「攻撃パターン」であり、
JTAが目指す「蹴美の競演」=フルコンタクト・テコンドーの試合ではない。

<予想される「攻撃パターン2」>

腰を落として前進し、間合いをつめながら、コーナーに追いつめて、中段突きを連打して、手のガードを落とし、
上段回し蹴りで決める、というもの。

これは、顔面強打を禁止しているフルコンタクト空手の「攻撃パターン」であり、
JTAが目指す「蹴美の競演」=フルコンタクト・テコンドーの試合ではない。

JTAフルコンタクト・テコンドー・ルールが、中段突きによる一本勝ちを認めているのは、
JTA選手が、強靱で打たれ強いフルコンタクト・ルールに耐えうる身体的能力を向上させるためのものである。

ライトコンタクト制のITFルールや、男子であっても胸と胴を保護する防具をつけるWTFルールの特徴により、
ITFおよびWTF所属選手の多くは、ボディを鍛えているとは言い難い状況にある。

JTA選手が、それをまねてはこまる。
ライトコンタクトや防具付きならば、ボディを鍛えなくても十分通用するかも知れない。
しかし、無差別級のフルコンタクト・ルールでは、内臓破裂などの大事故が起こる可能性もある。

しかもJTAの試合は、フルコンタクト空手やキックボクシングとの差別化により、ローキックを禁止している。
当然、JTA選手は、スタミナのロスが相対的に高い上段への蹴りよりも、それが低い中段への蹴りを多く放つのであり、
その分、ボディへの強打を受ける可能性が高い。
つまりJTAが中段突きによる一本勝ちを認めているのは、試合によって生じるであろう大事故を防止するためにあり、
中段突きの技術を高めるためのものではない。

たとえば、かつて有力なフルコンタクト空手団体主催(分裂以前)の全日本大会で、ある有力な支部所属の選手が、
顔面強打や背中への肘うちなどが禁止されていることを良いことに、
自分の頭を下げて相手の胸に自分の頭をつけながら、下突きとローキックの連打ラッシュで、相手のスタミナを浪費させ、
もしくは場外に追い込むという戦法を流行らせたことがあった。ポイントは「絶対後ろにさがらない」というものである。
この支部は、数年間、上位入賞を果たしたのであるが、他の支部の選手があらゆる大会で、それをまねるようになり
(もしくは、それと似た組手のスタイルをとるようになり)、試合の醍醐味がなくなった。
この攻撃パターンを得意とする選手の練習は、ウェイトトレーニング、体重増加、ローキックや下突きラッシュなどの
スタミナ強化稽古などが中心となる。
結果、「中量級以上の柔道選手」のような「真四角に近い肉体」をもつ選手が増加した。
確かに肉体は強化されたが、空手の技術が停滞した、
という危機感を抱いた他の有力な支部長が、支部長会議の席上、これを「ルールの悪用」と非難した。
他方、非難された支部長は、「ルール上、禁止されていないのだから有効である」と主張し対立した。
結局、この攻撃パターンは禁止される。
有力なフルコンタクト空手団体ですら、このような攻撃パターンを禁止しているという事実に着目すべきである。

<その対策>

この二つの「攻撃パターン」が、JTA一部組手試合(フルコンタクト・テコンドー・ルール)の流行だすと、
いったい何の試合なのかが分らなくなる。
おそらく観客の大部分は、「フルコンタクト空手の亜流試合」とみなす可能性が高い。

また、JTAが主催する全日本大会は、後楽園ホールのボクシングの四角いリング上で実施される。
ロープで囲まれた狭いリング上で、顔面強打の無いフルコンタクト空手の「攻撃パターン」が、
フルコンタクト・テコンドーの最高峰であるべき全日本大会で横行し、
それが優勝者や入賞者の得意技であったとするなら、
その主宰団体は、世の人々から「フルコンタクト空手の亜流・三流団体」とみなされる可能性が高い。

仮に、このような評価を下された場合、
全日本フルコンタクト・テコンドー大会の優勝者や入賞者の権威を自ら落とすことになりかねないし、
当然のことながら、JTAが社会的認知を受け、普及・発展する可能性は100%無くなる、と考える。
そうであるなら、早めに解散した方が良い、と考える。

よって、JTA理事会は将来起こりうるであろう問題点を未然に防止すべく第7回東京都大会一部組手試合より、
    @ 顔面強打が禁止されていることを奇貨として、攻撃しないで前進し、間合いをつめる行為の禁止
    A 手による押し(弱い張り手)の禁止
    B 4連打以上の中段突き(3連打まで)の禁止、する。


3,将来、生じるかも知れない試合中の事故に対する保障の増加 ー 死亡・後遺障害5千万

システムやルールの改正・改良の意味は、将来、生じるかも知れないリスクを成員に告知することにあり、
主催統括団体としての誠意を事前に明確化することにある。

世の人々は、武道や格闘技、フルコンタクト・テコンドーは危険だという。
しかし、現実に武道や格闘技での死亡や後遺障害は、水泳、ゴルフ、ジョギングなどに比べてはるかに低い。
前身団体を含めて20年の歴史を誇るJTAに関する限り、死亡や後遺障害は0である。

だが、メイジャーなスポーツは競技者が絶対的に多いのであって、競技人口が少ない武道や格闘技、とりわけ
フルコンタクト・テコンドーとは単純比較できない、という反論は、まったく正しい。

問題は、メイジャーなスポーツでの事故の多くが、「危険を見過ごした油断」から生じているという点である。
仕事や学業、私生活などでのストレスによる寝不足や体調不良であるにもかかわらず無理をする、
準備体操を十分に行わない、
飲酒プレーや賭けによる興奮などの「過失」があげられる。

他方、武道や格闘技は、そもそも危険である、という認識があるため、指導者は事故防止のための神経をかなりつかう。
まともな指導者がいる道場やジムでは、仕事帰りの会員の血色をチェックして無理をさせない。
組手や乱取りなどは強制しないし、本人が希望してもさせない場合が多い。
また、組手のレベルの差が歴然としている場合、上級者に受けさせるという配慮がある。
当然、飲酒プレーは法度であり、賭けなどはそもそも成立しない。
さらに、危険という意識がある以上、柔軟体操は他のいかなるスポーツよりも入念におこなう。
とりわけ、JTAの指導者は、細心の注意をはらい事故の防止に努めている。

しかし、JTA主催の全日本フルコンタクト・テコンドー選手権大会に限っていえば、
世界のアマチュア・テコンドー界の中で最も危険度の高い大会であるといえる。

@フルコンタクト・ルールである(ローキックがない分、上段への攻撃頻度が高まるなど)。
A無差別級である。
Bボクシングのリングで実施されるので場外へ逃げることができない
C男子はヘッドギアを着用しない
D選手のレベルの差がある
などである。

JTAが、突きによる顔面強打を禁止しているのは、死亡事故や脳への後遺障害を防止するためにある。
では、何故、蹴りによる顔面強打を禁止しないのか?
それを禁止すると、フルコンタクト・テコンドーという独自の打撃系武道が成立しない、という点につきる。
主催団体として細部のルールの改正・改良は今後も実施するが、現行ルールの大幅な改正・改良は難しい。

このリスクを知りながら、あえてそれに挑戦し、後楽園ホールのリングにのぼるJTA選手の高い精神性と勇気は、
世界のアマチュア・テコンドー界の中で最も称讃に値するものである。

著名な登山家は、命を失う危険をおかしてまで、「なぜ、山に登るのか?」という質問に対して
「そこに山があるからだ」と答えたという(結局、その登山家はエベレストで遭難し、死亡した)。

おそらくJTA選手の両親や妻などの家族、恋人などの多くは、「なぜ、危険な試合に出場するのか?」と
問いつめているかも知れないし、心の中では「はやめに引退してほしい」と思っているかも知れない。

JTA選手は、上記の問いに対し、
「そこに後楽園ホールがあるからだ」(笑い)、
「全日本チャンピオンになりたいからだ」、
「自分の可能性をためしたい」などと答えるかも知れない。

おそらく人間が、危険を顧みず、周囲の反対をおして何かに挑戦するというのは、
周囲から見れば、合理性の乏しいものであり、理屈では説明できにくいものであり、到底、理解できるものではないということだ。

だが、金銭的対価を度外視した「何か」に全身全霊をかけて打ち込んだ経験のある人は、
JTA選手の心が理解できると思う。

しかし、万一、大事故が生じた場合、主催者として選手に対する責任を明確化しなければならない。
全日本フルコンタクト・テコンドー選手権大会での大事故の責任は、すべてJTA会長の河明生一人が負う。

同様に、万一、大事故が生じた場合、主催者として選手に対する金銭的保障をあらかじめ示さなければならない。
JTAは、全日本フルコンタクト・テコンドー選手権大会によって生じた大事故(死亡・後遺障害)に対する
金銭的保障を5千万円とする(三井住友海上火災保険代理店、さくら保険サービスと締結)。